ネズミは都会でも田舎でも身近な存在ですが、実は環境によって大きく生態が異なります。
東京・都会の大きいネズミは主にクマネズミやドブネズミが多く、ビルや地下鉄など人工物の中に住んでいるのに対し、田舎ではハツカネズミやアカネズミなどが野山や畑に生息しています。
そのため、もたらす被害の種類や対策法にも違いが出てきます。
しかし、ネズミ被害に悩まされているという点では共通しているのではないでしょうか。
そこで今回は、都会と田舎のネズミについて、生態や被害、対策の違いを7つのポイントから詳しく解説。
最後まで読むことで、ネズミ問題の全体像が把握でき、より効果的な対策が取れるようになるでしょう。
この記事は、東京都保健医療局の「東京都ねずみ防除指針」を基に作成しました。
1. 都会と田舎に生息するネズミの主な種類の違い
まず、都会と田舎でよく見られるネズミの種類から見ていきましょう。
東京や都会の代表格と言えば、クマネズミとドブネズミの2種です。
一方、田舎では野ネズミと総称されるハツカネズミやアカネズミ、ヒメネズミなどが主流となります。
このように住み分けがなされている背景には、それぞれの生態的特性が関係しているのです。
1-1. 東京・都会の主役はクマネズミとドブネズミ
クマネズミは屋内型のネズミで、ビルや地下街など人工的な環境を好みます。
配管や空調ダクトを伝って自在に移動し、あらゆる場所に侵入する特性があります。
一方、ドブネズミは下水道などの湿った場所を好む習性があり、悪臭がする排水管内などに生息しています。
どちらも繁殖力が非常に高く、急速に個体数を増やすことができる点は共通しています。
1-2. 田舎の主役は野ネズミの仲間たち
対して田舎では、野山や畑、草むらなどに野ネズミが多数生息しています。
代表的なのがハツカネズミで、灰色がかった茶色の毛並みが特徴です。
薮や下草が生い茂る環境を好み、地面に坑道を掘って生活しています。
そのほか、アカネズミやヒメネズミなども各地の農地や森林で見られ、自然の中で世代を重ねています。
1-3. 生息域の違いが示すネズミの生態的特性
以上のように、都会と田舎でネズミの主要種が分かれているのは、それぞれの生態に適した環境があるためです。
東京や都会のネズミは人間の生活空間に適応することで繁栄し、田舎のネズミは野生環境で生き抜く力を身につけてきました。
このような生態の違いが、もたらす被害の種類にも反映されることになります。
続いて、都会と田舎のネズミ被害の特徴についても解説していきましょう。
2. 衛生面や健康被害の点から見た東京・都会のネズミ問題
東京や都会のクマネズミやドブネズミは、人間の生活環境と密接に関わっているがゆえに、深刻な衛生問題や健康被害をもたらします。
ここでは、都市部のネズミがどのような問題を引き起こすのか、具体的に見ていきましょう。
食品工場や飲食店への侵入は、食中毒の原因となる病原体の媒介につながる恐れがあります。
また、病院やオフィスビルでの被害も後を絶ちません。
2-1. レストランや食品工場への食害と衛生面の悪化
クマネズミは食品貯蔵庫や調理場に侵入し、食材や製品を食い荒らします。
ネズミの糞尿で汚染された食べ物を人間が口にすれば、感染症のリスクが高まります。
サルモネラ菌や腸管出血性大腸菌などの食中毒菌が代表的な例です。
衛生管理の行き届いた施設でも、ネズミの侵入によって一気に不潔な環境に陥ってしまうのです。
2-2. ビルや地下街での感染症や不快害の発生
オフィスビルや商業施設、地下街などでもネズミの被害は深刻です。
ネズミの排泄物からは、レプトスピラ症やリケッチア症などの感染症が広がることがあります。
また、悪臭や不快感を与えるだけでなく、ネズミの死骸が放置されると蛆虫が湧くなどの二次被害も起こります。
ビルの資産価値を大きく下げる要因にもなりかねません。
2-3. 医療機関における重大な院内感染リスク
病院や診療所など医療の現場でネズミが出没すれば、より深刻な事態を招きます。
免疫力の低下した患者さんへの感染症の蔓延や、無菌状態が求められる手術室の汚染など、重大な院内感染リスクにつながります。
隅々まで行き届いた衛生管理が求められる医療機関だからこそ、ネズミ対策には細心の注意を払う必要があるのです。
人の健康を脅かす東京や都会のネズミですが、田舎にはまた別の被害の形があります。
3. 田舎のネズミによる農作物被害と生態系への影響
一方、田舎の野ネズミは農作物の食害や生態系のかく乱など、農業や自然環境に対する被害が主な問題となります。
東京や都会のネズミとはひと味違う、田舎ならではのネズミ被害の実態に迫ってみましょう。
野ネズミは畑や田んぼの作物を食べ荒らし、収穫量の減少を招きます。
ときには壊滅的な不作の原因にもなりかねません。
3-1. 畑や果樹園での野菜・果物の食害
ハツカネズミを始めとする野ネズミは、畑の野菜や果樹園の果物を好んで食べます。
特に成長期の若い芽や実を狙うため、収穫前の作物に大きなダメージを与えます。
キャベツやレタスの結球部分を丸ごとかじられたり、リンゴやナシの実に穴を開けられたりする被害が全国で報告されています。
農家の人たちにとって、野ネズミ対策は重要な課題と言えます。
3-2. 水田での作物の食害と農作業の阻害
田植え後の水田にもネズミの被害が出ることがあります。
移植したばかりの苗を踏みつけて倒したり、稲穂を食い荒らしたりするのです。
収穫期に向けて育てた稲が、一晩でネズミに食べ尽くされるようなケースも珍しくありません。
さらに、ネズミ捕りや駆除のための農作業の手間も馬鹿になりません。
3-3. 在来種との競合による生態系へのダメージ
野ネズミの繁殖は、在来の野生動物相にも影響を及ぼしかねません。
ニホンリスなど固有種の餌となる木の実をネズミが食べつくしてしまうと、共存のバランスが崩れる恐れがあります。
また、ネズミを狙って入ってきた外来種の肉食獣が、在来の小動物を捕食するリスクも否定できません。
生態系のかく乱を避けるためにも、田舎におけるネズミ対策の重要性は増しています。
4. 東京・都会のネズミ対策で重視すべき3つのポイント
都会と田舎でネズミ被害の特徴が違うように、対策の仕方にもそれぞれ固有のポイントがあります。
まずは、都市部のネズミ問題に立ち向かう上で欠かせない視点を3つ取り上げましょう。
食品や医療の現場など、衛生管理が何より大切な施設での対策が重要になります。
事態を複雑にしないためにも、専門家による適切な駆除が求められるのです。
4-1. 侵入経路の特定と遮断がカギを握る
ネズミがどこから入ってきているのかを把握し、侵入口を完全に塞ぐことが大前提です。
壁の穴や配管の隙間など、ネズミが通れる可能性のある箇所を徹底的にチェックし、補修や封鎖を施しましょう。
出入口にはネズミ返しや金属製の扉を取り付けるなど、ハード面の強化も重要なポイントです。
侵入を水際で食い止められれば、施設内での繁殖を防ぐことができます。
4-2. 衛生管理の不備がネズミを寄せ付ける
食べ残しや生ゴミの放置は、ネズミを引き寄せる格好の餌となります。
食品廃棄物は密閉容器ですぐに処分し、清掃を徹底して残飯を作らないことが欠かせません。
ゴミ置き場も整理整頓を心がけ、ダンボールなどネズミの住処になりそうなものは置かないようにしましょう。
衛生管理の意識を全従業員で共有し、ネズミを寄せ付けない環境づくりを施設全体で実践することが求められます。
4-3. 専門業者に依頼して適切な駆除を行う
一般の人では対処が難しい事態には、迷わずプロの力を借りるべきです。
ネズミ駆除のスペシャリストに現場の調査を依頼し、施設の特性に合わせた駆除プランを立ててもらいましょう。
ただし、殺鼠剤など安易な方法には頼らず、トラップでの捕獲など人道性にも配慮した方法を選ぶことが望ましいでしょう。
無計画な駆除では、ネズミも学習して警戒心を強め、さらに対策が難しくなる恐れがあります。
5. 田舎のネズミ対策に効果的なアプローチ
一方、田舎のネズミ被害に立ち向かうには、また異なる発想が必要です。
自然環境の中で暮らすネズミたちに対し、いかに農作物を守るか。
そのためのヒントを3つ挙げてみました。
人と野生動物が共存するためには、ネズミの生態をよく知ることが大切だと言えるでしょう。
5-1. 田畑にネズミを寄せ付けない忌避対策を講じる
まずは予防の観点から、ネズミを田畑に近づけない環境づくりを進めましょう。
畦道や石垣など隠れ家になりそうな場所の草刈りを欠かさず、ネズミが身を潜める隙を与えないことが大切です。
また、ネズミ忌避剤などを活用し、嫌がる臭いで農地への侵入を防ぐのも有効な手段と言えるでしょう。
そもそもネズミを寄せ付けなければ、深刻な被害には発展しません。
5-2. わなや檻を使った物理的防除で個体数をコントロール
それでもネズミが現れる場合は、捕獲による個体数管理で農作物を守りましょう。
箱わなやかご檻など、ネズミを生きたまま捕まえるタイプのトラップが田畑での使用に適しています。
罠にはピーナッツバターなどネズミの好物を餌として使うと高い効果が見込めます。
捕獲したネズミは、なるべく遠くの森林に放すなど、人道的な処置を心がけることが大切です。
5-3. 天敵の働きを生かした生物的防除も有効
ネズミの天敵を味方につけるのも、自然界の摂理に基づいた賢明な方法です。
猛禽類のタカやフクロウは、ネズミを餌とする代表的な鳥類です。
田畑の近くに止まり木を用意したり、巣箱を設置したりして、これらの野鳥を引き寄せる工夫をしてみましょう。
そのほか、イタチやオコジョなどの小型のほ乳類もネズミを捕食し、個体数を抑制してくれる頼もしい存在です。
6. より良いネズミ対策のために心がけたい3つのこと
ここまで見てきたように、都会と田舎ではネズミ問題へのアプローチがかなり異なります。
しかし、被害を出させないという目的は同じです。
ネズミとの付き合い方に正解はありませんが、win-winの関係を築くためのヒントを3つ挙げておきましょう。
人とネズミ、野生と人里が程よい距離感を保てるよう、私たち一人一人が心がける必要がありそうです。
6-1. ネズミの生態をもっとよく知ること
まずは、ネズミという生き物への理解を深めることから始めましょう。
彼らがどのような習性を持ち、何を好み、何を嫌うのか。
その生態を知ることで、ネズミの行動を予測でき、先回りした対策を打つことができるはずです。
ネズミを一方的に憎むのではなく、自然界の一員として尊重する視点も大切にしたいものです。
6-2. 現状把握と早期対応を怠らないこと
ネズミ被害は、初期対応が肝心です。
ネズミの痕跡を見つけたら、すぐに原因を究明し、適切な対策を講じることが求められます。
見過ごしたり後回しにしたりしていると、あっという間に手が付けられない事態に発展しかねません。
日頃から施設内や農地をくまなくチェックし、ネズミの出没状況をいち早く把握する習慣をつけましょう。
6-3. 周囲との協力体制をつくること
ネズミ対策は、一軒だけでは限界があります。
周辺の住民や施設・農家の皆さんと連携し、地域ぐるみで取り組む必要があるのです。
互いの情報を共有し、足並みを揃えて対策を進められれば、より大きな効果が期待できるでしょう。
行政とも協力し、セミナーの開催や補助金の活用など、支援策を有効に生かすことも検討したいですね。
7. 人とネズミが共存するために私たちができること
最後に、人とネズミの共存について考えてみましょう。
ネズミを憎むあまり、一方的な駆除を進めるのは賢明とは言えません。
時には被害を受ける側になりながらも、ネズミには彼らなりの存在意義があることを思い出すべきです。
私たち人間に求められるのは、ネズミとの付き合い方を模索し続ける姿勢なのかもしれません。
7-1. 排除ではなく管理を基本とする
ネズミをこの世から完全になくすことは不可能であり、そもそも生態系のバランスを壊しかねない危険な発想です。
大切なのは、絶滅ではなく個体数管理の視点に立つことです。
被害が深刻な地域では思い切った駆除も必要でしょうが、基本は防除と管理でネズミとの共存を目指したいものです。
すべてのネズミを敵とするのではなく、棲み分けのルールを模索していく。
7-2. 人間社会のあり方を見直す
一方で私たち人間は、ネズミを引き寄せている自分たちの生活を振り返る必要もあるでしょう。
東京や都会のビルに潜むネズミも、田舎の畑を荒らすネズミも、もともとは人里離れた場所で暮らしていたはずです。
それが人間の生活圏の拡大によって、ネズミの住処を奪ってしまったのかもしれません。
ネズミを責める前に、人間社会のあり方を見直すことが求められているのです。
7-3. 自然の摂理に逆らわない
ネズミも自然界の一員であり、他の生物と深くつながり合って生きている存在だということを忘れてはなりません。
自然の摂理に逆らえば、思わぬしっぺ返しを食らうことになりかねません。
ネズミを極端に減らせば、ネズミを餌とする生物が駆逐される。
そしてネズミを食べていた生物がいなくなれば、また別の弊害が生じるかもしれません。
まとめ
都会と田舎、それぞれのネズミ事情を踏まえた上で、賢明な対策を講じていく必要がありそうです。
ネズミを一方的に憎むのではなく、なぜ問題が起きるのかを冷静に見極めましょう。
そして、Win-Winの方法を模索しながら、ネズミとの共存を目指すこと。
それこそが、人間にできる最良の選択なのではないでしょうか。
被害の実態をよく知り、ネズミの生態を理解し、周囲と協力しながら対策を進める。
私たち一人一人が身近なところから、ネズミとの新たな付き合い方を探っていきたいものです。