東京の農業といえば狭い、高齢化が進んでいるといったマイナスイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。
しかし、実は東京の都市農業は、大きな変革の時を迎えているのです。
先進的な農家たちの創意工夫あふれる取り組みにより、都市農業の新しい可能性が開かれつつあります。
この記事では、東京の都市農業の最前線を調査し、未来を切り拓く農家たちの挑戦をご紹介します。
都市農業への理解を深め、農家を応援するヒントが満載ですよ。
ぜひ最後までお付き合いください。
この記事は、農林水産省の「都市農業の優良事例集」と「都市農業にトライ!」を基に作成しました。
1. レモン栽培とグリーンツーリズムで地域活性化
松戸市のある農家は、温暖化の影響で栽培可能になったレモンに着目。
無農薬栽培にこだわった「新松戸レモン」のブランド化に成功しました。
直売所やマルシェでの販売だけでなく、レモンを活用したスイーツ作りなどの6次産業化にも取り組んでいます。
さらに、農園に併設したカフェを拠点に、地域住民との交流を活発化。
1-1. レモンの木オーナー制度で担い手を育成
農家の高齢化と担い手不足は深刻な課題ですが、この農園では「レモンの木オーナー制度」を導入。
オーナーは年会費を払う代わりに、レモンの収穫体験や加工品の割引購入などの特典が受けられます。
オーナーの中から、将来の担い手候補を発掘・育成しているのだとか。
都市住民を巻き込んだ、未来志向の取り組みと言えるでしょう。
1-2. 大学との産学連携で栽培技術を革新
レモンは温暖な気候を好むため、寒冷地としてのハンデを抱える東京での栽培は難しいと考えられてきました。
しかしこの農園では、地元大学と連携し、東京の気候風土に適した栽培技術の研究を重ねてきました。
その結果、独自の仕立て方や土壌改良の方法を編み出すことに成功。
単なるものづくりに留まらない、学術機関とのタッグは、都市農業の新しい形と言えます。
1-3. 援農ボランティアとの協働で障壁を克服
限られた労働力で農園を運営するのは容易ではありません。
そこでこの農園では、援農ボランティアを募り、作業の手助けをしてもらっています。
援農を通じて、都市住民は農業の大変さと魅力を体感。
一方、農家は人手不足の解消だけでなく、消費者との交流を通じて、農業への理解者を増やすことができるのです。
2. 伝統野菜の復活と食育への取り組み
江戸時代から続く伝統野菜「寺島なす」。
生産が途絶えていたこの幻のなすを復活させたのが、墨田区の農家グループです。
区内の空き地を借りて開設した市民農園で、寺島なすを中心とした江戸野菜を栽培。
江戸の食文化を未来に伝える活動が、地域で広がりを見せています。
2-1. 地元の飲食店とコラボした寺島なすメニューを開発
寺島なすは、一般的になすに比べて形が小さく、皮が薄いのが特徴。
この特性を活かし、地元の飲食店とコラボしてオリジナルメニューを開発しました。
寺島なすのテンプラや、なすを丸ごと使ったグラタンは、素材の味を存分に楽しめると評判です。
生産者と料理人が知恵を出し合う取り組みは、都市農業ならではの強みと言えるでしょう。
2-2. なす祭りやワークショップで伝統野菜の普及に注力
生産だけでなく、伝統野菜の魅力を広く伝える活動も精力的に行っています。
毎年開催される「寺島なす祭り」では、なすの販売だけでなく、料理教室や収穫体験などを実施。
都会の真ん中で、江戸の食文化に触れられる貴重な機会となっています。
こうした地道な活動の積み重ねが、失われつつある伝統野菜の存在価値を高めているのです。
2-3. 小学校と連携した食育プログラムを推進
「食育先進区」を標榜する墨田区では、小学校の授業の一環として、農園での体験学習を行っています。
子どもたちは、なすの栽培管理を通年で体験。
種まきから収穫まで自分の手で行うことで、食べ物の大切さを学んでいきます。
農家による出前授業も行われ、食と農の関係性への理解を深める機会となっているのです。
3. 企業とのコラボで実現する屋上農園
ビルの屋上を農園に変えるムーブメントが、東京や都会で静かなブームとなっています。
中央区の東京証券会館でも、2022年に屋上ファームガーデン「Edible KAYABAEN」がオープン。
ビル所有者、農業者、教育団体の三者が連携し、持続可能な街づくりに取り組んでいます。
緑と農のある暮らしを、都心のオフィス街で実現する画期的な試みです。
3-1. 循環型農法を通じた環境教育の場に
KAYABAENでは、古くから伝わる自然農法「パーマカルチャー」を取り入れています。
植物の性質を活かした混植や、落ち葉などを堆肥化する循環型のシステムが特徴です。
都会の子どもたちに、自然のサイクルを学ぶ機会を提供し、環境保全の意識を育んでいます。
使い捨ての多い都市生活とは対極の農的ライフスタイルに触れる、貴重な体験の場となっているのです。
3-2. マルシェやワークショップで地域コミュニティを醸成
KAYABAENでは、収穫した野菜を使ったマルシェを定期的に開催。
オフィスワーカーや近隣住民が、採れたての野菜を買い求める姿が日常風景になりつつあります。
また、園芸教室や料理講座など、農に関わるワークショップも好評です。
参加者同士の交流が生まれ、コミュニティの輪が広がっているのだとか。
農を介した新しいつながりが、人と人、人と街を結ぶ接着剤となっているのです。
3-3. ビルと農園の共生モデルを全国に発信
KAYABAENの試みは、東京だけでなく全国から注目を集めています。
農園運営にかかるコストは、ビル所有者が負担。
一方、農園の緑が働く人の癒しとなり、オフィスの資産価値を高める好循環が生まれているのです。
都市と農業が互いの価値を高め合う、未来志向の共生モデルとして期待されています。
4. 福祉農園でチャレンジド・シニアが活躍
農福連携と呼ばれる、農業と福祉の連携の動きが加速しています。
大田区の農家が、知的障害者を受け入れて農作業の指導にあたる「チャレンジドファーム」はその先駆けです。
年間を通して様々な野菜を育てながら、農業生産と障害者の社会参画を両立させる、画期的な取り組みとなっています。
また、リタイア後の高齢者を積極的に受け入れる「シルバー農園」の活動も目を引きます。
4-1. 農作業を通じて「働く喜び」を実感
チャレンジドファームで働く人たちは、野菜の種まきから収穫、出荷調整まで、一連の作業を担当。
「はたらく」ことの喜びを肌で感じることができます。
農作業の細分化・マニュアル化により、それぞれの特性に合わせた仕事を任せられるのが強みです。
自然を相手に汗を流す充実感は、働くモチベーションを高める原動力となっているようです。
4-2. シニア世代の知恵を農業の力に
かつて農村部で暮らしていたアクティブシニアを、戦力として活用しているのがシルバー農園です。
野菜作りのプロとして、栽培計画の立案から品質管理まで、その知見を遺憾なく発揮しています。
若手の農家を指導する役割も担い、技術の継承にも貢献。
現役を退いたシニア世代の第二の人生を、農業というフィールドで実り多きものにしているのです。
4-3. 農を通じた共生社会の実現に期待
福祉農園の取り組みは、障害者やシニアの社会参画だけでなく、農業の人手不足解消にも貢献しうると期待されています。
他の産業に比べて参入障壁が低く、多様な人材を受け入れやすい農業の特性が活きている分野だと言えます。
農業を軸に、誰もが居場所と役割を持てる共生社会の実現。
それこそが、福祉農園の目指す未来なのかもしれません。
5. 企業の新規参入で広がる都市農業の可能性
農業分野に異業種からの新規参入が相次いでいます。
都内でも不動産デベロッパーや流通大手が、次々と農園事業に乗り出しています。
企業の資本力と、農家の栽培技術を組み合わせ、先端技術を駆使しながら、都市型農業の新たな形を模索する動きが活発化。
ビジネスとしての「アグリベンチャー」に挑む、意欲的なプレーヤーたちに注目が集まっています。
5-1. ブランドファームで差別化を図る
都心の好立地に農園を構え、自社ブランドの農産物を生産する流通系企業の参入が目立ちます。
品種改良や栽培方法の工夫で、味や見た目に優れた「ブランド野菜」の開発に注力。
差別化による高付加価値化を武器に、従来の流通ルートを変革しようとしているのです。
外食チェーンや高級スーパーとの直接取引で、収益性の高いビジネスモデルの確立を狙います。
5-2. ICT活用で生産性向上に挑む
ITベンチャーによる「スマート農業」の取り組みも盛んです。
センサーやAIを駆使した高度な環境制御により、植物工場での野菜づくりの生産性向上を目指します。
気象データ解析による収穫予測など、デジタル技術の応用範囲は広がる一方。
「農業×テクノロジー」の新結合は、都市農業の課題解決の突破口になるかもしれません。
5-3. 地域の農家とのWin-Winを目指して
企業参入組と地域農家との連携も、重要なポイントとなります。
加工・販売のノウハウを生かして、農家の生産物の高付加価値化に貢献するケースもあります。
新規就農希望者に農地をマッチングするなど、担い手の確保を支援する動きもあるようです。
ビジネスと地域貢献を両立させる共存共栄のモデルは、都市農業の発展に欠かせないものとなるでしょう。
6. 地産地消レストランが産地の魅力を発信
「地産地消」をうたうレストランが、都内でも増加の一途をたどっています。
「ファームtoテーブル」をコンセプトに掲げ、生産者の見える化を推し進めるのが特徴です。
シェフ自ら畑に足を運び食材を吟味する「顔の見える産直」を実践。
東京や都会の農家が作る野菜の魅力を、料理を通して伝えています。
消費者に「食べて応援」を呼びかけ、都市農業の持続可能性に貢献しようとしているのです。
6-1. 旬の味をダイレクトに届ける
地元農家から直送される採れたての野菜を使った料理の数々。
この味を多くの人に知ってもらいたい、そんな生産者の思いに共感したシェフが腕を振るいます。
「農家の顔が見える」をキャッチフレーズに、素材の味を最大限に引き出す調理法が工夫されているのです。
6-2. 農家とシェフのタッグで新メニュー開発
レストランと農家のコラボレーションは、新商品開発の面でも威力を発揮します。
規格外の野菜の有効活用や、伝統野菜の掘り起こしなど、生産者の抱える課題解決のヒントに満ちているからです。
料理人の感性を生かした商品企画は、農家だけでは気づかなかった野菜の可能性を引き出すことにつながります。
新メニューの開発を通じて磨かれた、農家とシェフの信頼関係。
6-3. 食べて知る都市農業の価値
美味しいトマトを口にしたとき、レストランの客は自然と産地のことを意識するはずです。
「この野菜はどこで、誰が作ったのだろう?」
そんな疑問が湧いてくることで、都市農業への興味が広がっていくのではないでしょうか。
料理を楽しむことが、東京や都会の農業を知るきっかけとなる。
7. 教育ファームで子ども達が「農」を学ぶ
「農業体験を通して食や命の大切さを学ぶ」をコンセプトに、子ども向けの教育ファームの取り組みが広がりを見せています。
農作業や調理実習など、体験型プログラムを通じて、農業や食に対する理解を深める狙いです。
単なる遊び場ではなく、農の大切さを学ぶ「本物」の体験。
次世代の「農」への意識を育むことが期待されています。
7-1. 「農業」が学べる体験型教室を開講
種まきから収穫までの一連の農作業を、子どもたちが主体的に行うのが教育ファームの特徴です。
土に触れ、作物を育てる過程を通じて、命の尊さや食べ物の大切さを学びます。
農家の指導を受けながら、野菜づくりの喜びや大変さを肌で感じるリアルな体験。
教室では学べない、生きた「農業」の姿に触れる機会となっているのです。
7-2. 「食育」も同時に実践
自分で育てた野菜を使った調理実習も、教育ファームの目玉コンテンツ。
「スナップエンドウのパスタ」や「ニンジンのケーキ」など、子ども向けのメニューが用意されています。
とれたての野菜のおいしさを実感することで、「食」への興味を深めるのが狙いです。
栽培から調理まで一貫して体験することで、食の大切さを多角的に学ぶことができるのです。
7-3. 「農」を通じた人材育成にも期待
教育ファームの体験は、子どもたちの「生きる力」を育むことにもつながるはずです。
自然の中で汗を流し、仲間と協力しながら作業する。
そんな体験の積み重ねが、たくましい心と体を作り上げていくと期待されています。
「農」を通じて育まれるさまざまな力は、子どもたちの将来の糧になるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
東京や都会の都市農業は、さまざまな挑戦を繰り広げています。
伝統野菜の復活や、企業参入による新たなビジネスモデルの開発。
福祉や教育との連携で、農の力で地域の課題解決に取り組む動きも活発化しています。
これからの都市農業は、「農にできること」の可能性を広げ、都市の持続可能性に貢献していくことでしょう。
ぜひ、東京農業の魅力を体感し、農家の皆さんの取り組みを応援してください。